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福岡高等裁判所那覇支部 平成5年(行コ)3号 判決 1994年8月23日

沖縄県国頭郡本部町字山川四七七番地

控訴人

仲間利彦

沖縄県名護市東江四丁目一〇番一号

被控訴人

名護税務署長 長浜盛八郎

右指定代理人

蔵田博国

石原淳子

宮城安

宮城朝章

松田昌

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における新請求にかかる訴えを棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し平成元年六月二一日付でした昭和六三年分の贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定はいずれも取り消す。

三  被控訴人が控訴人に対し平成元年六月二一日付でした昭和六三年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定はいずれも取り消す。

四  平成元年三月一三日名護税務署で作成提出された控訴人の昭和六三年分所得税の確定申告書(分離課税用)は無効であることを確認する(当審における新請求)。

第二当事者の主張

当審における新請求についての請求原因及びこれに対する認否を次のとおり付加するほかは、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目表七行目の「課税価額」を「課税価格」に、同四枚目裏一行目の「算定した」を「乗じて算出すると」にそれぞれ改める。)。

一  当審における新請求についての請求原因

控訴人は、平成元年三月一三日、昭和六三年分所得税の確定申告のために、名護税務署に赴き、同署担当職員に買換特例の適用を主張した。同職員は、これを無視し、出ようとした控訴人を怒鳴って呼び出し、「申告期限も近いし一応五〇パーセントの買換特例を適用しておくから、異議があれば異議申立でも裁判でもやればいい。」などと言って、本来であれば買換特例の適用により土地譲渡所得四五三万二七〇〇円、納付すべき税額九〇万六五四〇円となるのに、控訴人をして所定の用紙に土地譲渡所得一二五七万四六四〇円、納付すべき税額二五〇万一〇〇〇円とする過大な金額の昭和六三年分所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を無理やり控訴人をして作成させ、被控訴人に提出させた。このように、本件確定申告書は、被控訴人の右違法行為に基づき作成されたものであるから無効である。

よって、その無効確認を求める。

二  当審における新請求についての請求原因に対する認否

控訴人が、平成元年三月一三日、昭和六三年分の所得税の確定申告のために、名護税務署に赴き、同署担当職員に買換特例の適用を主張したこと、控訴人が、同日、本件確定申告書を作成し、被控訴人に提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の「書証目録」及び「証人等目録」記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一贈与税決定等処分について

一  請求原因1の(一)及び(三)の各事実は、当事者間に争いがない。

そこで、本件贈与税決定等処分に控訴人主張の違法が存するか否かについて判断する。

二  甲一の1、2、四、九の2、一三、乙一、五ないし八、九の1ないし3、一二、一五、一八及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件土地を含む分筆前の国頭郡金武町字金武後村渠五八番の土地(以下「分筆前の五八番土地」という。)は、もと控訴人の父である長一郎が所有していた。

2  昭和四七年四月一七日、分筆前の五八番土地について、長一郎の次男である長義に対し、同月一五日贈与を原因とする所有権移転登記がされた。

3  控訴人は昭和四五年ころから昭和四八年ころまで東京都や大阪府に居住し、その後昭和五六年ころまでアメリカに居住していた。長儀は、昭和三八年ころから昭和五七年ころまでの間大阪府に居住していた本件土地は、長一郎やその長男(控訴人及び長儀の兄)が管理していた。長儀は、長一郎に送金するなどし、分筆前の五八番土地に対する固定資産税を納めていた。

4  長一郎は、昭和五六年一月三一日、金武町との間で、分筆前の五八番土地の一部六〇〇平方メートルについて、長儀を貸主とし、金武町を借主として、賃貸借契約を締結し、以後、右土地は、金武町の駐車場として使用された。当初の賃料は年額一八万一八一八円であったが、その後昭和六一年に一九万九九九九円に増額された。その際も長儀が貸主としてその約定をした。

5  長儀は、昭和六三年度分(昭和六二年一月一日から同年一二月三一日まで)までの住民税の申告において、右賃料収入の全額を自己の不動産所得として計上していた。控訴人の昭和六三年度分までの住民税の申告において、右賃料収入が所得として計上された形跡はない。

6  昭和六三年六月一四日、分筆前の五八番土地から本件土地が分筆された上、同月一七日、本件土地について、長儀から弟の控訴人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がされた。

7  控訴人は、同月二七日ころ本件土地を大城幸信に売却し、同年七月七日、同年六月二七日売買を原因とする所有権移転登記手続をした。

三  以上の各事実を総合すれば、分筆前の五八番土地の登記上の所有名義が長儀に移転した後においては、長儀が、これに係る固定資産税を納め、借主である金武町から賃料を取得し、その旨の税務申告をしていたのであるから、これを所有者として使用収益していたということができ、これに前記認定の所有権移転登記の推移を併せ考えると、長一郎は、昭和四七年四月一七日ころ、分筆前の五八番土地を長儀に贈与し、長儀は、昭和六三年六月一七日ころ、その一部であった本件土地を控訴人に贈与し、控訴人においてこれを取得したものと推認するのが相当である。

四  ところで、甲一四、乙一八(いずれも控訴人に対する別件の尋問調書)には、「昭和四七年以前に、長一郎から、埋立工事をすることを条件に分筆前の五八番土地の全部の贈与を受けた。そして、長一郎とともに埋立工事をした。昭和五六年ころ、これが長儀名義になっていることを知らされ、長一郎に聞いたところ、『司法書士には控訴人名義にするよう言ったのだが、司法書士が勝手に長儀名義にした。半分を長儀に分けてやってはどうか。』と言われ、拒否できずに、控訴人と長儀の共有となった。その後、司法書士に苦情を言ったが、それが自分達のやり方であると言って間違いを認めなかった。金武町からの賃料については、控訴人と長儀が折半して取得していた。」旨の記載がある。

1  しかしながら、右供述記載中、登記手続を依頼した司法書士が、依頼の趣旨に反して分筆前の五八番土地を長儀の名義にし、しかも、その後苦情を述べても間違いを認めなかったという部分は、いかにも不自然であり、また、これがその後一六年近くも長儀名義のままになっていたことからしても、到底信用することができない。

2  そして、控訴人が分筆前の五八番土地の賃料を長儀と折半して取得していたという部分についても、前記認定事実に照らし、採用の限りではない。長儀が右賃料の半額を控訴人に支払うことを約する旨の昭和五七年一月三日付の書面(甲二)が提出され、別事件における長儀の証人尋問調書(甲一三)中にも、長儀は、金武町から受領していた賃料の半額を控訴人に支払っていた旨の記載があるけれども、右書面は、本件の争いのために日付をさかのぼらせて作成された疑いを否定できないものであり、いずれにしても、右各証拠は、控訴人の供述記載以上に出るものではなく、採用の余地はない。

3  分筆前の五八番土地の埋立工事をしたとする部分については、その工事の費用は長一郎が負担し、その工事のみならず、右土地の周囲に金網を設置した工事についても、長一郎と共同でしたというのであるから、控訴人は、家族の一員として埋立工事等を手伝ったに過ぎないものと考えられるのであって、控訴人のいうような埋立工事をすれば右土地を控訴人に贈与する旨の合意があったことまでを認めるに足りる証拠はない。結局、控訴人の前記供述記載は全体として信用できないというべきである。

五  甲一五の1ないし4、一六によれば、控訴人が分筆前の五八番地土地をめぐる種々の紛争につき関係者との交渉に当たったり、整地作業を依頼したり、右土地の賃貸借契約書中に賃料の支払期日を明記するよう求めたりしたことなどを窺がわれるが、他方右書証中には、長一郎が第三者に対し右土地を使用するについて承諾を与えたことがある旨の記載もあり、右の程度の控訴人の関与は家族の一員としての補助的なものに過ぎなかったものというべきであるから、前記認定を覆すには至らない。

そのほか、甲三には、控訴人が昭和四七年以前に長一郎から本件土地の贈与を受けたとの記載があるが、前記認定事実に照らし、信用できない。また、控訴人に対する本件土地の所有権移転登記の原因が真正な登記名義の回復であることも、登記官は登記申請を受理するについては形式的審査権を有するに過ぎないことからすれば、控訴人主張の根拠とはなり得ない。

六  したがって、昭和六三年六月一七日ころに控訴人が本件土地を取得したとしてされた贈与税の決定に控訴人主張の違法はない。

七  乙三及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の主張1の(二)及び(三)の各事実が認められる。また、控訴人には贈与税の申告をしなかったことについて正当な理由があるとは認められない。

八  以上のとおりであるから、本件贈与税決定等処分は、何ら違法はなく、適法である。

第二所得税更正等処分について

所得税更正等処分についての判断は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決八枚目表三行目から同裏七行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表九行目から同一〇行目にかけての「(前掲甲第一号証の二により認められる。)」を削除する。

2  同一〇行目の「原告の所有期間が」から同末行の「明らかである。」までを「控訴人の本件土地の所有期間は右要件を充足しないし、また、控訴人が同月一七日以前から本件土地の売却を予定していたこと(控訴人の自認するところである。)を併せ考えると、本件土地は控訴人が事業の用に供していたものとはいえないことは明らかである。」に改める。

3  同裏四行目から同五行目にかけての「租税特別措置法三一条、同法施行令二〇条二項三号」を「昭和六三年法律第一〇九号による改正前の租税特別措置法三一条、昭和六三年政令第三六二号による改正前の租税特別措置法施行令二〇条三項三号」に改める。

第三本件確定申告書の無効確認の訴えについて

控訴人は、行政庁である被控訴人を被告として、名護税務署職員に本件確定申告書の作成及び提出を強制されたとして、本件確定申告書の無効確認を求めている。その訴えの内容及び性質は必ずしも明らかではないが、被控訴人を被告としていることから抗告訴訟として控訴人の昭和六三年分所得税についての確定申告の無効確認を求める訴えと解されるところ、右確定申告は、私人である控訴人の行為であって(甲一四によれば、控訴人が本件確定申告書に署名押印したことが認められる。)、行政庁の行為とはいえないから、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟である抗告訴訟としては不適法というほかない。

第四結論

よって、控訴の趣旨二及び三の請求は理由がなく、これらを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので、これを棄却するとともに、同四の当審における新請求にかかる訴えを却下することとし、当審における訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 坂井満 裁判官 伊名波宏仁)

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